2007年11月17日

Librarianの休日―サマセット・モーム

透き通った秋の日差しに、落葉松が金色に輝く一日。
その針のような葉が、凛とした冷気の中を舞い落ちていく
時、カラカラと幽かな音をたてる。

夜になると、木枯らしが吹きすさぶ音が聞こえてきた。

こんな夜は、ストーブの蒔がはぜるかたわらで、

「そうだ、読書しよう!」

早速、今夜のお供をしてくれる本を物色にいった。

しかし、とても「司書をしています」なんて、恥ずかしくて言えないような乱雑な本棚。

今日は、クラシックな香りのする名作を読みたい気分・・・、

『アンナ・カレーニナ』(新潮文庫)これは、上・中・下と揃えたにも関わらず、上巻で挫折した本。
おまけに、家にあるのを忘れて、また買ったので、二冊ずつある。

『カラマーゾフの兄弟』(新潮文庫)これは、買っただけで満足して読んでない・・・。

『嵐が丘』(新潮文庫)これは、気分に合うけど、何度も読んだから・・・。

迷った末、サマセット・モームに決めた。


4480030077アー・キン
サマセット モーム William Somerset Maugham 増野 正衛
筑摩書房 1995-05

by G-Tools



サマセット・モームは『月と六ペンス』『雨・赤毛』は読んだ覚えがあるが、これは読んでいない、気がする・・・。

『アー・キン』は、モームが阿慶アーキンと一緒に南海方面
(ニユーギニア・ボルネオ・中国・マレー・ビルマなど)に
旅した際得た着想を元にかかれた作品が収められている短編集。

「本書は一九六〇年八月、モーム短編集Z・[(新潮文庫)として刊行された」とあるように、
クラシックな訳文は、表現もさることながら、読めない漢字がとにかくたくさんあった。

例えば・・・
「撞球室」話の前後から察するに、ビリヤード台のある部屋
のような気がするのだが・・?

「駐箚官の賜暇不在中の行政事務を代行している駐箚官代理」

「琴瑟相和している夫婦」

「阿媽」現地人の使用人を意味している?

日頃、ルビ完備の児童書を多く読んでいるせいか、外国語を読むような心持だった。

しかし、こういった困難が苦にならないくらい、どの短編も面白く、魅力的だった。
読み終えてつくづく、サマセット・モームは本当にスゴイ作家だと思った。
まず、筋立てが上手くできているので、古典名作にありがちな気難しさが気にならない。
グイグイ話の中に引っ張られていく。
そしてただストーリーが面白いだけではなく、読み終えた後、
人間の弱さに対する作者の温かな眼差しがしみじみ心に残るのだ。

どの話も、そこに描かれているのは、救いようのない過ちを犯した人間達のすさんだ現実で、ただそれだけならば、エキセントリックな事件の面白さはあっても、後味はひどく悪くなるはずなのだが、モームの人間に対する寛容さが物語全体を温もりのある、美しいものにしている。

まるで、「人は弱さや醜さがあるからこそ、魅力的なのだ」
と言っているかのようだ。

更に、作品を魅力的にしているのが、巧みな文章表現や、小道具の描き方だ。

『書物袋』という作品には、活字中毒ともいえる「私」(モーム自身と思われる)が、旅をする時いつも持ち歩いている本を詰める麻布袋が登場する。

「私は自分の書物袋を指さした。それは不恰好に胴体を脹らませて直立していた。大分酔いのまわった眼で見るせいか、まるで背骨の曲がった小人みたいな恰好に思われた」(P222)

「ながい間の経験から、私はこの袋のあけ方を心得ていた。まずそれを横倒しにして、皮革張りの底の部分をしっかり摑み、そのまま後ずさりしながら、内容だけをそこに残して袋を抜き取るのである。書物が川のように床の上に流れ出てゆく」(P222)


「あらゆる種類の書物がそこにはあった、(中略)母国にいるときの忙しい生活のなかではどうしても時間がなくて読めない書物。狭い海峡を不定期航路の汽船で曲がりくねりながら旅するときに読むべき書物。海が荒れて船室のあちこちがぎいぎいと軋み、墜落せぬように身体を寝床にぎっちりと嵌め込んでいなければならぬときに読むべき書物。」(P223)

狭い海峡を旅する時に読む本とは、一体どんな本なのだろう?
と想像をめぐらせているだけで、わくわくしてくる。


こうして読み進んでいく内に、読めない漢字だらけのその訳文が、エキゾチックな東南アジアの舞台とうまくあいまって、物語世界をより豊かなものにしてくれていることにも気づいた。

最近は優れた新訳が続々と出てきて、クラシカルな名作を
身近に楽しめるようになっているが、古めかしい言葉と漢字が
そのままの訳も結構いいなあ、と思った。

外は木枯らしが吹いているけれど、温かな蒔きストーブが
燃える部屋の中で、南国の密林やプランテーション、
美しい珊瑚に彩られた海洋を旅する贅沢に恵まれた。

次は、『かみそりの刃』を読んでみよう。
上・下ともすでに揃っているし・・・・。




posted by Helenaヘレナ at 00:00| Comment(4) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
拙宅の本棚も既に天井を凌駕しつつあります。

読書は、活字への慣れ、もありますね。快楽になってしまえば、こっちのものです。
ドストエフスキー、局所的巷でブームのようです。
長芋の、いや長いものもいかが。
(すごい誤変換なのでそのままにしてみた)
Posted by iza at 2007年11月20日 12:22
いやあ、izaさまの本棚、懐かしいです〜。
きっと更に充実されたことでしょう。
izaさまとは、絵画や展覧会のこともよく
語り合った思い出がありますが、
この地に越してきて、もっぱら絵本美術館めぐりばかりになっていました。
最近、友人から上野の美術館で「フィラデルフィィア美術館」の展覧会があるとの情報を聞き、
平日仕事を休んでいこうかなあ、とよこしまな思いを抱いています。
ワイエスやホッパーの絵もあるそうで、楽しみ〜!
Posted by Helenaヘレナ at 2007年11月21日 09:19
秋の読書、いいものですよね。
なかなか最近はぼーっとしていてダメモードなのですが。
モームは短編で有名らしく、趣味に合いそうと思いながらも、アンソロジーに収録されているいくつかを呼んだだけだと思います。ヘレナさんのご紹介の本は面白そうですね。図書館で一度チェックしてこようと思っています。短編集、最近短編ばかり大好きです。
「アンナ・カレーニナ」はわたしも読もうと思いつつ、購入もまだですが、一生のうち一度は読むつもりはあります(汗)

Posted by kmy at 2007年11月24日 11:09
kmyさま、ありがとうございます!!
ブックレビューの達人のkmyさまにそういっていただけると、嬉しいです。
私も最近本を読んでいるつもりでいたら、
いつの間にか眠っていたりして・・・。
「アンナ・カレーニナ」と、あと、ドストエフスキーもぜひ読みたい!とは思っています。とりあえず仕事の本が先だけど・・・。
Posted by Helenaヘレナ at 2007年11月26日 14:34
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